2026.9.11
介護あぶれ400万人に

400万人が介護にあぶれる時代を前に 介護職、親の介護と両立限界
2026年9月5日 15時01分
ジャーナリスト・小林美希

2040年、2人に1人が介護を受けられなくなる時代がやってくる――。その大きな原因となるのは、介護職不足です。月給は全産業の平均より9万円も低く、長時間労働が強いられがち。そこに親の介護が重なることで、辞める介護職も少なくありません。ジャーナリスト・小林美希さんによる朝日新書『介護難民400万人時代 2040年 日本型“超高齢社会”の末路』
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「シフトに殺される!」
愛知県の老人保健施設で働く西村優太さん(仮名、56歳)は、14時間、16時間を超えるシフト労働の日々を送る。
優太さんの職場のシフトは「早番」が7時から15時半まで、「日勤」が9時から17時半まで、「遅番」が12時半から21時まで、「夜勤」は一人体制で17時から翌9時半までとなる。それぞれ残業になることが多い。人手が足りないため、誰かが感染症にかかるなど急な欠勤があると、その穴を埋めるために「通し勤務」のシフトになることが頻繁にある。
早番と日勤がセットになって10時間半の勤務になる、日勤と遅番がセットになって12時間労働になることはザラ。早番から遅番が通しとなって14時間労働になることもある。こうした勤務が続くと、冒頭のように優太さんは「シフトに殺される」と思うのだ。
介護施設では高齢者の転倒や誤飲などに常に気を配る。持病があって急変し、看取(みと)りになるケースもある。緊張感のある現場でイレギュラーな長時間労働のシフトが組まれ、心身ともに疲弊してしまう。そうしたなか、優太さんと妻の両親(80代半ば)それぞれの介護が同時に始まった。
優太さんの母親は腰を手術して歩けなくなり、リハビリ病院に入院中だ。父親は家でひとり。身体が弱っており、デイサービスを利用している。通院や買い物の手助けが必要だ。
義父は癌(がん)を患って要介護になり、週2日デイサービスに通う。やはり一人で買い物や通院ができない。義母は洗濯や料理はできるが足腰が弱くなり、買い物に行くことができない状況だ。

妻は介護と仕事の生活で体調を崩してしまい、優太さんが義父母の世話をする。それぞれの実家まで車で約2時間。いつ介護の時間を確保するか、シフトと睨(にら)めっこ。優太さんの休みの日のほとんどが親の介護で過ぎていく。
義父から何かにつけて用を頼まれ、連日、スマホに何十回もの着信があるが、嫌がってもいられない。連絡が途絶えると、それは危険なサイン。折り返して電話をして返事がないと、失禁したまま倒れていることがある。そうした時は脱水症状を起こしているため、救急車を呼ぶ。同じことが月に3度もあった。
介護職として仕事をしながら、親を介護する優太さんの頭の中にあるのは、「この生活がいつまで続けられるのだろうか」ということ。
4年後には60歳の定年を迎える優太さんだが、現在の基本給は月19万円に満たない。資格手当や夜勤手当や残業代などを含めて手取りが約30万円になるが、60歳以降は再雇用で働くことになる。同じ仕事をしても基本給が6割程度に減額されるうえ、手当が削られる。
「親の介護で、これからいったい、どうなるのか。経済的な余裕があれば親を介護施設に入れられますが、最低でも月十数万円はかかります。介護職の賃金は低いので難しい。もう、介護職以外の仕事を探すしかないかと考えています」
介護労働安定センターの「介護労働実態調査」(2025年度)によれば、現在「家族介護をしている」者は12.5%となっている。今後5年間のうちに「家族介護をする可能性がある」者は50.2%と約半数を占める。
介護職と家族介護の両立ができない悪循環
同調査では「現在の職場で家族介護をしながら仕事を続けることができるか否か」という問いに対する回答として、「続けられないと思う」「おそらく続けられないと思う」が合計で46.1%だった。介護職の離職率は12.4%で、毎年、10人に1人が辞めている状態。家族介護を担う介護職が増えれば、離職が増える可能性がある。
2040年に迫る介護需要のピーク時には、今よりも約60万人も多くの介護職が必要だとされているが、直近で年間に2万人しか増えていない。これから現役世代の人口が減っていくなかで、介護職が大幅に増えるとは期待できない。介護職が増えない前提で試算すると、約400万人が介護にあぶれかねない。
介護人材の不足は、質の低下にも直結する。介護施設の夜勤は、職員が1人で数十人の利用者を見ることが少なくない。著書『介護難民400万人時代』では、ある介護施設で1人で夜勤をこなさなければならない職員が、夜中のトイレ介助や失禁後の着替えに追われるだけでなく、利用者の徘徊、精神不安などの対応に奔走する現場もルポしている。
介護職の多くが懸命に仕事にあたる一方で、「忙しくて、やってらんない」と匙(さじ)を投げ、夜間、オムツの中で便が出ているのが分かっていてもオムツを交換しない介護職員もいるのが現状だ。その施設では人手が足りずに「70歳で新人」の介護職まで雇われている。
介護業界の人材不足を考える時、介護職が仕事と家族介護の両立ができないという悪循環に陥っていることも見過ごしてはいけないだろう。
(提供:朝日新聞出版)

