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介護エピソード 出会い別れ





何年か前の話になります。
私にとても親切にしてくれたご利用者様がいました。 

その人、Aさんは軽い認知症でしたが、私の名前を覚えてくれて、
「いくちゃん、いくちゃん」 

と呼んで、内緒でお菓子をくれたり、自分で作った人形を私にくれたり、時には私が仕事でバタバタしていると
「いくちゃん、ここでちょっと休んでいきやあ」 

と言って体を気遣ってくれたり、急に後ろから抱きついたり…
とってもユーモアのある優しい方でした。 

そんな毎日を過ごしていましたが、ある時期に、私は留学をするため会社を長い間休むことになり、Aさんにもそのことを伝えました。 

留学から帰ってきた私は、また元のホームに戻りましたが、Aさんは体調を崩して、すでに退居していました。 

それ以来会えなくなって、寂しいなぁと思いながらも、日々の仕事に追われていき、思い出す事も少なくなっていきました。 

それから1年以上経ったある日、私の祖母の体調が悪くなって、市民病院へ入院となり、私も面会に何度か足を運びました。

その時にバッタリAさんの娘さんを見かけました。

おそるおそる「こんにちは。」
と挨拶し、名乗ると覚えていてくれたらしく、昔話に花が咲きました。 

Aさんの話にもなり、ここで入院しているとの事…
しかももう歩く事も難しく、危険な状態との事でショックを受けました。 

心の中では、
(やっぱり覚えてないだろうなぁ…)
(でも覚えてなかったらショックだよなぁ…)

など色々考えながら病室へ行き、ゆっくりカーテンを開けると、
痩せた手にはたくさんの点滴、さらにベッド脇にはたくさんのチュープが垂れ下がり、昔の面影は少ししか残っていないAさんが眼っていました。 

声をかけようかと迷っていると、目が覚めたようで私と目が合いました。

ひと呼吸あけ、Aさんが
「いくちゃん?今戻ったの?」 

私は一瞬何の事かよく分からなかったのですが、覚えていてくれた事に感激して、涙がどんどん溢れてきました。

そして、Aさんと2人で抱き合ってわんわん泣きました。



話していくうちに、「今戻ったの?」という質問の意味が分かりました。 

Aさんは、私が海外に行ってくると言った事も覚えていてくれたようで、たった今戻ってきたと思ったようでした。 

面会を終え、温かい気持ちで家へ帰りました。 

それから何週間か経った時、葬式の看板にAさんの名前が書いてあるのを見つけました。 

体の中がすごく熱くなりました。
色んな事を思い出してきました。 

現在、私は介護の仕事を続けてきて、5年経ちました。

亡くなった方を何人も見てきて、辛くて仕事を辞めようかと思った事も何度も何度もありました。 

この仕事を続ける意味は? 

出会っても私より早く亡くなってしまう。
もう人が亡くなるのは見たくない。
もう嫌だ。 

でもAさんとの出来事があってから考え方が変わりました。

人が亡くなるのはやっぱり辛い、後悔も残る。

だけれども、
少しでもこの人の役に立ちたい、思い出に残りたい、最後に笑顔で見送りたい。

今はそう思っています。
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