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10月21日(バック・トゥ・ザ・フューチャーが向かった未来)

「10月21日」
脇山博司
 
西暦2015年10月21日
丁度この日は、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が描いた輝かしい未来。


 
ここ数年、話す相手も無いのに、広紀は誰かに話しかけていた。
「もう20年以上前になるな。
今でも昨日のことの様に、思い出すぜ。
清子との約束を果たす為にーーー。
完成したデロリアン型タイムマシンを起動するぜ」
 
中学二年生の秋、 1993年11月15日。
「清子、東京の学校行っても、元気でやってけよ」
「うん。広紀も元気でね」
「俺達が、21歳になった時、
またこの橋の上で会おうぜ」
「うーーーうん」
「じゃあさ、俺達の8年後の夢を
タイムカプセルに閉まって埋めようぜ。
8年後に会った時に開けて見るのはどうだ?」
「うん。ーーーいいよ」
「この紙に夢書こうぜ」
「うん」
俺の夢はーーー。
「この砂浜のこの木の所に埋めておこうぜ。
8年後の今日、2001年11月15日ここで会おう」
「うん」


 
それから清子は、父親の仕事の関係で、
東京の学校へ転校していった。
俺達は、別に付き合ってるわけでもなく、
ただの幼馴染。
でも俺は、清子に恋をしていた。
月日はたち、俺も21歳になった。
あれから一度も清子に会ってないし、
連絡もしていなかった。
清子のやつ、8年前の約束ちゃんと覚えてるかな?
彼氏できちゃったかな?
俺は、清子の事を一度も忘れたことはなかったし、今でも好きな気持ちは変わらない。
 
いよいよ、明日約束の日だ。
清子に会える。
8年前の約束を、ずっと楽しみにしていた。
「もしかして広紀?」
後ろを振り返るとそこには、清子が立っていた。
「清子、8年たつのにあまり変わってないな」
「うーーうん。久しぶりだね」
「ちゃんと、約束覚えてたんだな」
「もちろんだよ。忘れたことなかったよ」
8年前の約束の橋の上で、清子に会った。
「じゃあ、早速タイムカプセル開けようぜ」
「本当に見るの?」
「当たり前だろ。何しにきたんだよ」
「会えただけでもいいじゃん」
「ばーか。俺は、どうしても清子に見せたいんだよ。
俺の夢を」
「ーーー」
タイムカプセルを砂浜から出し、開けた。
「ちゃんとあるもんだな。清子のから見るか」
「ーーー」
紙を広げた。
「なんだよこれ!白紙じゃねか!」
「ーーー」
「なんで何も書いてないんだよ。
タイムカプセルなんてばからしいと思ってたのか?
俺の事ばかにしてたのかよ!」
俺は、久しぶりに清子に会ったというのに、
怒鳴ってしまった。
8年後の今日、タイムカプセル開けて、
白紙だったなんてーーー
「ごめんね、広紀ーーー。
馬鹿にしてたわけじゃないよ」
「じゃあ、なんでだよ」
「私ね、私、8年後の自分がどうなってるか
分かんなかったの」
「なんだよそれ」
「広紀にはずっと言えなかったんだけど、
小さい時から、心臓が弱かったの」
「なんだって!」
「お父さんの転勤で東京行ったのも嘘なんだ。
大きな病院で、いい環境で治療しないと
いけなかったの」
「そんなこと何も言ってなかったじゃないか。
それに、小さい頃から、ずっと一緒に
遊んでたじゃないか。別に元気だったろ?」
「それは、広紀に心配かけたくないから、
つらくなったら、 トイレに行ったり、
なんとかしてごまかししてたんだよ」
「俺達、幼馴染じゃないのかよ!
なんでも話してくれてもいいだろ。
今更そんなこと言われてもーーー」
俺は、だまってしまった。
気づいてやれなかった自分に、
腹をたててたのかもしれない。
「今は、大丈夫なのか?」
「うーーーうん」
「そうか。じゃあ、俺の夢を見てくれよ」
紙をひろげて、広紀は見せようとした。
「ごめん、私、もう行かなくちゃ」
「行く?行くってどこへ?」
「会えて良かった。ありがと」
清子は、そう言うと消えてしまった。
 
「清子!」
俺は、叫んで気づいた。
なんだ、夢だったのか。
今までのことは、夢だったんだ。
ベッドの上でぼーっとしていた。
「え?」
二枚の紙を手にしていた。
「なんだよ、これ」
タイムカプセルの中身。
白紙の紙と、俺の夢が書いてある紙。
「なんでーーー。
あれは夢だったのに、なんでーーー」
ドンドン。
「広紀、起きてる?」
母さんが、ドアを叩いて、部屋に入ってきた。
「なんだよ。勝手に入ってくるなよ」
「それが、今、町田さんの奥さんから電話があって、
清子ちゃん覚えてるでしょ?」
「ああ」
「落ち着いて聞いてね。
三年前に亡くなったそうよ」
「ーーーなんの冗談だよ!」
「冗談なんかじゃないわ」
「なんで、三年前の事で今頃、電話かかってきて、
報告あるんだよ!」
「清子ちゃんの頼みみたいよ。
どうしても今日まで、連絡しないでって、
強く頼まれたんですって」
「ーーー」
「清子ちゃんのご両親、今、元の家に帰って
来ているらしいの。
手紙があるらしいから、清子ちゃん家に
いってらっしゃい」
俺は、まだなにがあったのか、分からなかった。
清子が死んだ?信じられない。
 
着替えて清子の家に向かった。
ピンポーン。
清子の家に着き、チャイムを鳴らす。
「はーい。広紀君、久しぶりね」
清子のお母さんが、ドアを開けながら、
にこっと笑いながら言う。
「清子さんが亡くなったって本当ですか?」
「ーーーええ。清子から手紙預かってるの」
「俺に?」
「ええ。あの子の部屋の机の上にあるから、
読んであげて」
「はい」
清子の部屋に行き、部屋を見渡す。
小さい頃から、何も変わってない部屋。
変わったと言えば、もう清子は、
ここにはいないということーーー。
机の上の手紙を手に取った。


 
高 広紀様
 
この手紙を読んでるってことは、あれから8年が経ち、
今日は、11月15日になったんだね。
あの時の、約束忘れたことなかったよ。
約束の橋に行きたい!
でも私は、8年後にはもうーーー。
広紀、ずっと言えなかったことがあるの。
小さい頃から、心臓が弱くて、
よく発作が起きていたの。
広紀に気づかれないように、
ごまかすの大変だったんだ。
広紀には、余計な心配かけたくなかったから、
言わなかったけど、 最後にどうしても伝えたくて、
こうして手紙を書く事にしたの。
タイムカプセルの8年後の夢。
私は、白紙のまま中に入れてしまった。
もう生きてないことが、分かっていたから。
でももし、私が生きてたら、その紙には、
『広紀のお嫁さんになる』って書いてたよ。
だってね、私、広紀が初恋の人だったから。
ごめんねーーー。
ずっと隠していて。
広紀の夢はなんだったのかな? 叶うといいね。
広紀と過ごした、約十年間、本当に幸せだった。
ありがと。
広紀には、明るい未来があるから羨ましいな。
最後になるけど、約束守れなくてごめんね。
いままでありがと。
さようなら。
町田 清子
 
清子、まだおまえの夢も、俺の夢も叶えてないぜ。
だって、俺の夢は、
『清子を幸せにすること』だったんだ。
あの夢は、現実だったのか?
俺に、会いに来てくれたのか?
俺は、その場に、座り込み、
ずっと我慢していた涙を、流した。
ありがとう、清子。
でも、俺は、さよならは言わない。
さよなら言ったら、一生会えないから。
広紀は涙でグシャグシャな顔のまま、
約束の橋を下り、 タイムカプセルが
埋めてある木の根元まで来た。
そこは掘られた跡で、手紙はなかった。
清子とここで会ったのは夢なのか、
現実だったのかは分からないけど、
俺の夢はまだ叶えられていない。
そして8年前の約束を。
俺は今から、タイムマシンを作る。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
で、デロリアンが西暦2015年10月21日の
未来を変えた様に。
待ってろよ清子、お前と別れたあの日に帰り、
助けに行くからな!!


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