2024.11.2
遠距離恋愛
中学、高校の頃は自分の気持ちを他人に伝えることがうまくできないという経験をお持ちの方も多いでしょう。表現力が乏しく、また結果を予測する能力が十分でない為、不安になるのでしょう。特に異性に恋心を伝えることは誰しも難しいと思います。隣同士の席にいても心は遠距離なのかも知れません。
「遠距離恋愛」
脇山 博司
「ーーわたしはーーいや、わたしたちは気持ちを通じ合えるーー通じ合わせられるーー通じ合わせられれるーーられれれるーー?ーーあれ?ああ、もう!ここのセリフはあとでいいわ。場面が切り替わるから、音響ストップ。照明オンーー」
高校の自由時間、席で頭を抱えてブツブツ言っていると、後ろの高くんに不意に呼ばれた。彼は私の肩に手を置き、指差す。振り向いたわたしの頬が軽くつぶれる。ぽよ。
「後ろは無防備。いいよなあ。これ、お約束だね?」
高くんはけっこうイタズラ好き。
「さっきから何をブツブツ言っているの、町田さん?」
私はため息をついた。
「演劇の脚本が出来ないのーー」
「町田さんって、演劇部なの?」
ぽよ。
「言ってなかった?そうなの。脚本担当よ」
「へー、すごい!」
演劇とか脚本とかというと、みんなこんな反応をする。うわべだけというか、かたちだけというか、社交辞令で誉めてるから心がこもっていない。どうも高くんは違うよう。私が恥ずかしくなるくらい「すごい!凄い!」を連呼。
「ーーそんな、それほどでもないような、あるような?」
誉められるのに慣れていないから私は動揺した。謙遜をしているのか、していないのか、よくわからない受け答えになってしまった。
「どんな内容なの?」
「シアトルとボルチモアで離れ離れに暮らす恋人の話。女性は婚約していたけど、パーティーで知り合ったバツイチ子持ちの人を運命の人と思い、遠距離恋愛を乗り超え結婚する」
「どっかできいたことのある話だな」
言われると思った。
「最近、テレビCMしてた。『めぐり逢えたら』トム・ハンクス、メグ・ライアンの映画よ。1957年の映画『めぐり逢い』にヒントを得たーー」
「クラスの女子が騒いでたやつかな?」
「うん。うちでも『あれ、いいね!』って話題になってさ。先輩に言われたんだよね。『脚本家先生、今度あんな恋愛を』って。もう、言うのは簡単だよね!楽だよね!」
ついこぼすと、高くんは私の先輩のマネにハマったらしい。吹き出した。
「ぶっ!さすが演劇部、なりきるなあ!」
「笑いごとじゃないわ。わたし必死なんよ」
未来から来た猫型ロボットにでも助けて欲しかった。すると高くんが机の中をごそごそと探る。そして、何やら取り出した。
「えー、スマホ?ガッカリ」
私が仏頂面すると、高くんが不思議そうな顔をする。
「何が出てくると思ったの?」
「ーーえ?未来への扉とか四次元につながるぼけっととかーー」
「あ!ごめん。ドラえもんじゃなくて。俺もさ、そのCMを見てみようかなと思って。自由時間で、スマホを出しても怒られないでしょう。町田さんの力になれるかもしれない」
私は高くんの手を握りしめた。
「ーーま、町田さん!?」
「今、思ったけど、高くんっていい人だね!」
授業中、私が先生にさされた時、答えを後ろからこっそり教えてくれる。私が困っていると助けてくれる。うんそう、顔も大仏様の面差しと似ているようなーー。高くんてわたしからしたら神様仏様!
「ーーえー。席替えして半年経つのに、いい人だけ?もっと他の言い方無いの町田さん」
「席替えで席が近くなって、高くんとよく話すようになったけど、こんなにいい人だったなんて!席替えの時、たまたま窓際を選んで正解!」
私が微笑むと、高くんが苦笑した。
「ーーたまたま、ねえーー」
うちの席替えはちょっと変わっている。いったん全員が廊下に出て、先に女子だけが教室に入り、自分の好きな席を選ぶ。後から男子も教室に入り、自分の好きな席を選ぶ。その後、男子女子も入りご対面となる。教室のドアが少し空いて、スキマから男子が覗いているのを女子は知らなかった。
「こんなに近い席だけど、一番遠い場所かもしれないなあ。心の距離が遠いというかーー」
「へ?」
「ううん、なんでもない」
彼はまた人差し指を突き出す。私のほっぺたが軽くつぶれる。
「俺の遠距離恋愛の話!」
ぽよ?
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「遠距離恋愛」
脇山 博司
「ーーわたしはーーいや、わたしたちは気持ちを通じ合えるーー通じ合わせられるーー通じ合わせられれるーーられれれるーー?ーーあれ?ああ、もう!ここのセリフはあとでいいわ。場面が切り替わるから、音響ストップ。照明オンーー」
高校の自由時間、席で頭を抱えてブツブツ言っていると、後ろの高くんに不意に呼ばれた。彼は私の肩に手を置き、指差す。振り向いたわたしの頬が軽くつぶれる。ぽよ。
「後ろは無防備。いいよなあ。これ、お約束だね?」
高くんはけっこうイタズラ好き。
「さっきから何をブツブツ言っているの、町田さん?」
私はため息をついた。
「演劇の脚本が出来ないのーー」
「町田さんって、演劇部なの?」
ぽよ。
「言ってなかった?そうなの。脚本担当よ」
「へー、すごい!」
演劇とか脚本とかというと、みんなこんな反応をする。うわべだけというか、かたちだけというか、社交辞令で誉めてるから心がこもっていない。どうも高くんは違うよう。私が恥ずかしくなるくらい「すごい!凄い!」を連呼。
「ーーそんな、それほどでもないような、あるような?」
誉められるのに慣れていないから私は動揺した。謙遜をしているのか、していないのか、よくわからない受け答えになってしまった。
「どんな内容なの?」
「シアトルとボルチモアで離れ離れに暮らす恋人の話。女性は婚約していたけど、パーティーで知り合ったバツイチ子持ちの人を運命の人と思い、遠距離恋愛を乗り超え結婚する」
「どっかできいたことのある話だな」
言われると思った。
「最近、テレビCMしてた。『めぐり逢えたら』トム・ハンクス、メグ・ライアンの映画よ。1957年の映画『めぐり逢い』にヒントを得たーー」
「クラスの女子が騒いでたやつかな?」
「うん。うちでも『あれ、いいね!』って話題になってさ。先輩に言われたんだよね。『脚本家先生、今度あんな恋愛を』って。もう、言うのは簡単だよね!楽だよね!」
ついこぼすと、高くんは私の先輩のマネにハマったらしい。吹き出した。
「ぶっ!さすが演劇部、なりきるなあ!」
「笑いごとじゃないわ。わたし必死なんよ」
未来から来た猫型ロボットにでも助けて欲しかった。すると高くんが机の中をごそごそと探る。そして、何やら取り出した。
「えー、スマホ?ガッカリ」
私が仏頂面すると、高くんが不思議そうな顔をする。
「何が出てくると思ったの?」
「ーーえ?未来への扉とか四次元につながるぼけっととかーー」
「あ!ごめん。ドラえもんじゃなくて。俺もさ、そのCMを見てみようかなと思って。自由時間で、スマホを出しても怒られないでしょう。町田さんの力になれるかもしれない」
私は高くんの手を握りしめた。
「ーーま、町田さん!?」
「今、思ったけど、高くんっていい人だね!」
授業中、私が先生にさされた時、答えを後ろからこっそり教えてくれる。私が困っていると助けてくれる。うんそう、顔も大仏様の面差しと似ているようなーー。高くんてわたしからしたら神様仏様!
「ーーえー。席替えして半年経つのに、いい人だけ?もっと他の言い方無いの町田さん」
「席替えで席が近くなって、高くんとよく話すようになったけど、こんなにいい人だったなんて!席替えの時、たまたま窓際を選んで正解!」
私が微笑むと、高くんが苦笑した。
「ーーたまたま、ねえーー」
うちの席替えはちょっと変わっている。いったん全員が廊下に出て、先に女子だけが教室に入り、自分の好きな席を選ぶ。後から男子も教室に入り、自分の好きな席を選ぶ。その後、男子女子も入りご対面となる。教室のドアが少し空いて、スキマから男子が覗いているのを女子は知らなかった。
「こんなに近い席だけど、一番遠い場所かもしれないなあ。心の距離が遠いというかーー」
「へ?」
「ううん、なんでもない」
彼はまた人差し指を突き出す。私のほっぺたが軽くつぶれる。
「俺の遠距離恋愛の話!」
ぽよ?