2025.3.15
「最後のバッター」
2025年春の第97回センバツ高校野球は3月18日に開幕予定ですが、甲子園に応援に行くのは、東北地方からだと1試合約2000万円ほどの費用が発生するようです。仮に決勝まで勝ち進んだと仮定すると、約1億円まで費用が膨らみます。資金繰りが厳しい学校だと子供たちに甲子園には行ってほしくないですね。
「最後のバッター」
最後のバッターにはなりたくない。
活躍できればヒーローだが、打ち取られれば最悪だ。
「高!準備しておけ!」
監督の鬼田はグランドを見ながら言った。ベンチにいた選手たちは、その言葉で静まり返った。9回裏ツーアウト、満塁の一打逆転のチャンスだった。
高 広紀は全身に拍動を感じた。
「かっ、監督ーーーボクでーーーボクでいいんですか?」
「三年間頑張ってきたんだろ?大丈夫だ自信を持て!」
「ハイ!」
高校生活三年間を野球に捧げてきた広紀だったが、結局レギュラーになることはできなかった。ベンチ入りできたのは今日が初めてだ。
夏の高校野球予選決勝、あと1勝で甲子園という大事な一戦で、突然告げられたメンバー変更。そのメンバー発表で広紀は選ばれた。
鬼田は代打を審判に告げた。
広紀はバッターボックスに立つと武者震いした。練習試合でも立ったことが無い場所に、公式戦の重要な場面で立っているのだ。緊張するなと言う方が難しい。
メンバーに選ばれた時は、3年最後の記念に選ばれ、ベンチにいるだけだと思っていたが、鬼田がなぜ俺をベンチ入りさせ、この大事な場面で俺を代打に指名したのか正直解らない。

広紀は鬼田に視線を向けた。サインの確認だ。
鬼田は腕組をし、頷いた。お前に任せるということか?広紀はバットを短く持って構え、投手を睨んだ。
相手投手に疲れが見える。チャンスはあるはずだ。
ーー1球目は見送る。
「ボール!」
ーーもう1球見送る。
「ストライク!!」
ーーもう1球見送る。
「スト、ライック!!!」
ーー審判のおっちゃんも気合入ってるな。
この後2回ボール球が続いた。今回の俺は選球眼が冴えているようだ。次を見送ってボール球ならファーボールだ。同店のチャンスだ。
「スッ、トッ、ライーク!!!」
ーーフルカウントかーーー。
次の球。次の球が運命を決める。この勝負に勝てば俺はヒーローだ。わが校の歴史に甲子園初出場の選手として名を残せる、
「ストライク!バッターアウト!ゲームセット!」

ロッカールームは静まり返っていた。全力で戦った選手たちに、余力は残っていなかった。
広紀はロッカールームの角でうなだれていた。
俺が全てを台無しにしてしまったのだ。
鬼田がロッカールームに入ってきた。表情は暗い。
「みんなよく頑張った。これまでの苦しい戦いを勝ち抜き、決勝の舞台に立つことができたのは、みんなの努力の結果だと思う」
選手の中からすすり泣く声が聞こえる。鬼田は続ける。
「3年生はこれが最後の試合になってしまったが、なってしまったがーーー」
鬼田は目頭を押さえた。
「最後に打てなかった奴を恨むんじゃないぞ!絶対恨むんじゃないぞ!」
広紀は目を剥いた。
「確かに打てなかった奴が悪い。しかし嫉むんじゃないぞ!」

前日ーー
「校長!わざと負けろとはどういうことですか?」
鬼田は困惑の表情を隠せない。
「決勝戦までいけたんだ。もう十分じゃないかね?鬼田くん」
「しかしーーあと1勝で甲子園ですよ!」
「キミねぇーー甲子園なんかに出場したら、遠征費をどう考えているんだね?わが校に、遠征費を出す余裕はないのだよ、わかるだろ?」
校長の言葉で負けろと言われた理由が、鬼田にもわかった。確かに年々受験者数が落ちている学校にとって、遠征費の捻出は難しいものがあった。
「しかし校長ーー生徒にどう説明したらいいのかーー」
「なぁに簡単だよ、鬼田くん」そう言って校長は鬼田に耳打ちをした。
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「最後のバッター」
最後のバッターにはなりたくない。
活躍できればヒーローだが、打ち取られれば最悪だ。
「高!準備しておけ!」
監督の鬼田はグランドを見ながら言った。ベンチにいた選手たちは、その言葉で静まり返った。9回裏ツーアウト、満塁の一打逆転のチャンスだった。
高 広紀は全身に拍動を感じた。
「かっ、監督ーーーボクでーーーボクでいいんですか?」
「三年間頑張ってきたんだろ?大丈夫だ自信を持て!」
「ハイ!」
高校生活三年間を野球に捧げてきた広紀だったが、結局レギュラーになることはできなかった。ベンチ入りできたのは今日が初めてだ。
夏の高校野球予選決勝、あと1勝で甲子園という大事な一戦で、突然告げられたメンバー変更。そのメンバー発表で広紀は選ばれた。
鬼田は代打を審判に告げた。
広紀はバッターボックスに立つと武者震いした。練習試合でも立ったことが無い場所に、公式戦の重要な場面で立っているのだ。緊張するなと言う方が難しい。
メンバーに選ばれた時は、3年最後の記念に選ばれ、ベンチにいるだけだと思っていたが、鬼田がなぜ俺をベンチ入りさせ、この大事な場面で俺を代打に指名したのか正直解らない。

広紀は鬼田に視線を向けた。サインの確認だ。
鬼田は腕組をし、頷いた。お前に任せるということか?広紀はバットを短く持って構え、投手を睨んだ。
相手投手に疲れが見える。チャンスはあるはずだ。
ーー1球目は見送る。
「ボール!」
ーーもう1球見送る。
「ストライク!!」
ーーもう1球見送る。
「スト、ライック!!!」
ーー審判のおっちゃんも気合入ってるな。
この後2回ボール球が続いた。今回の俺は選球眼が冴えているようだ。次を見送ってボール球ならファーボールだ。同店のチャンスだ。
「スッ、トッ、ライーク!!!」
ーーフルカウントかーーー。
次の球。次の球が運命を決める。この勝負に勝てば俺はヒーローだ。わが校の歴史に甲子園初出場の選手として名を残せる、
「ストライク!バッターアウト!ゲームセット!」

ロッカールームは静まり返っていた。全力で戦った選手たちに、余力は残っていなかった。
広紀はロッカールームの角でうなだれていた。
俺が全てを台無しにしてしまったのだ。
鬼田がロッカールームに入ってきた。表情は暗い。
「みんなよく頑張った。これまでの苦しい戦いを勝ち抜き、決勝の舞台に立つことができたのは、みんなの努力の結果だと思う」
選手の中からすすり泣く声が聞こえる。鬼田は続ける。
「3年生はこれが最後の試合になってしまったが、なってしまったがーーー」
鬼田は目頭を押さえた。
「最後に打てなかった奴を恨むんじゃないぞ!絶対恨むんじゃないぞ!」
広紀は目を剥いた。
「確かに打てなかった奴が悪い。しかし嫉むんじゃないぞ!」

前日ーー
「校長!わざと負けろとはどういうことですか?」
鬼田は困惑の表情を隠せない。
「決勝戦までいけたんだ。もう十分じゃないかね?鬼田くん」
「しかしーーあと1勝で甲子園ですよ!」
「キミねぇーー甲子園なんかに出場したら、遠征費をどう考えているんだね?わが校に、遠征費を出す余裕はないのだよ、わかるだろ?」
校長の言葉で負けろと言われた理由が、鬼田にもわかった。確かに年々受験者数が落ちている学校にとって、遠征費の捻出は難しいものがあった。
「しかし校長ーー生徒にどう説明したらいいのかーー」
「なぁに簡単だよ、鬼田くん」そう言って校長は鬼田に耳打ちをした。